電磁波の健康影響を示す多数の研究

電磁波の危険水準

 

どれくらいの強さになると電磁波は健康へ影響を与えるのか、これまで見てきた研究から、その危険水準を探ります。

そしてそれを身の回りにある電磁波の強さと対比します。

まず最初に電磁波の性質について簡単に説明し、そのうち磁界の成分が危険であることを説明します。

また、電磁波の研究結果がなぜ矛盾するのか、その理由についてもお伝えします。

目次All_Pages

電磁波の性質

電気的な力の働く空間ことを電界といい、磁気的な力の働く空間のことを磁界といいます。

電流が流れると周囲に磁界が発生しますが、この時に電流の強さや方向が変化すると、磁界の強さや方向も変化します。この磁界の変化によって新たに電界が発生します。変化する電界はさらに磁界を発生させます。このように磁界と電界がお互いを繰り返し発生させながら空間を伝わっていく波のことを、電磁波といいます。

電磁波

電磁波には自然・人工の双方のものが存在し、電化製品などが発する300Hz以下の超低周波の電磁波から、携帯電話が利用する300MHz以上のマイクロ波、3THz以上の光、3000THz以上の電離放射線まで、非常に多岐に渡ります。

電磁波の性質は周波数に応じて様々に変化します。

電磁波の種類

このサイトでは、送電線や電化製品が発する300Hz以下の超低周波の電磁波のことを低周波電磁波、電波塔や携帯電話、携帯基地局などが利用している、無線周波数帯の電磁波のことを高周波電磁波と呼んでいます。

超低周波の電磁波はその波長が非常に長く(50Hzで約6000km)、波としての性質はほとんど失われており、電界と磁界は独立して存在しています。

磁界成分が危険

そして超低周波の電磁波のうち、磁界が強い生体効果を持つことが示されています。

例えばヒト大腸がんの細胞に超低周波の電界か磁界、あるいはその両方を被曝させた実験では、磁界の成分に大きく反応してがん細胞のコロニー形成が増加することを示しています。(Phillips et al. 1986)。

がん細胞の増加

がん細胞のコロニー形成が電界で1.7倍、磁界で14倍、電界+磁界で24倍になりました。

また、国際がん研究機関 (IARC) による分類でも、極低周波の磁界と、磁界と電界が一体不可分の無線周波数帯の電磁波は「発がん性の可能性がある」としている一方、極低周波の電界に関しては「発がん性について分類できない」としています。

これは超低周波の磁界が容易に人体を貫通するのに対し、超低周波の電界はその影響が体表のみに留まる、という点も関係していると思われます。

また電磁波が健康に影響を与える原理ですが、電磁波を照射すると、生体において磁性をもつ化合物 (※) が、電磁波の磁界成分に依存してそのエネルギーを吸収し (磁気共鳴)、活性酸素といった反応物の収率を変化させるという仮説が現在有力です。(Hore and Mouritsen 2016, Ritz et al. 2009, Vácha et al. 2009, Müller and Ahmad 2011, Sherrard et al. 2018, Barnes and Greenebaum 2014, Thöni et al. 2021)

つまりまだ仮説とはいえ、原理的にいっても電磁波の磁界成分が危険ということになります。

現在有力な候補はクリプトクロムと呼ばれるタンパク質です。クリプトクロムはその化学反応において、磁気感受性をもつ「ラジカルペア」を一時的に形成するため、電磁波によって反応物の収率が変化しえます。
クリプトクロムは哺乳類においては体内時計 (時計遺伝子) として機能しています。時計遺伝子の利用は、哺乳類の体中の細胞で観察されているため (Mohawk et al. 2012)、電磁波がクリプトクロムの化学反応に干渉するならば、その影響は体全体に及ぶ、ということになります。

低周波電磁波の危険水準

高圧線や電化製品

磁束密度

高圧線や電化製品の低周波電磁波の強さの指標としては一般的に磁束密度が使われます。

これは空間的な磁界の強さを表し、単位は μT です。

危険水準

危険水準として、0.1μT以上という値が、今まで紹介してきた研究から読み取ることができます。

低周波電磁波の危険水準

0.1 μT以上、あるいは安全をとって0.01μT以上という値が危険水準として読み取れます。

高圧線

一方、高圧線の発する低周波電磁波の強さは以下の通りです。(The Electric Power Research Institute)

高圧線の低周波電磁波の強さ

低周波電磁波の強さは、高圧線の15 m圏内では10 μTを超えていて、60 mを過ぎてもが1 μTを超えています。

高圧線の低周波電磁波は、危険水準である0.1 μTの100倍以上ということになります。

電化製品

続いて、電化製品の発する低周波電磁波は以下の通りです。(Gauger 1985, Aerts et al. 2017, Florig and Hoburg, Institute of Electrical and Electronics Engineers, The Electric Power Research Institute, Tell and Kavet 2016, Japan EMF Information Center)

電化製品の低周波電磁波の強さ

低周波電磁波の強さは、多くの電化製品のおいて、1 μTを超えています。 (最大値)

IH調理器は300 Hzから1 MHzの中間周波数帯の磁界の強さです。

電化製品の低周波電磁波は、危険水準である0.1 μTの10倍以上ということになります。

高周波電磁波の危険水準

携帯基地局や電波塔

電力密度

電波塔や携帯基地局からの高周波電磁波の強さの指標としては電力密度がよく使われます。

これは空間的な電磁波のエネルギー量を表し、単位はμW/cm2です。

危険水準

危険水準として、0.001 μW/cm2以上という値が、今までみてきた研究から読み取ることができます。しかし研究の数は十分でありません。

高周波電磁波の危険水準

0.001 μW/cm2以上という値が危険水準として読み取れます。

空間インピーダンス377Ωとして、論文記載の電界の強さから計算。

携帯基地局

一方、携帯基地局の高周波電磁波の強さは以下の通りです。(Marinescu and Poparlan 2016)

携帯基地局の高周波電磁波の強さ

高周波電磁波の強さは、携帯基地局の200 m圏内では0.1 μW/cm2を超えていて、400 mを過ぎても0.01 μW/cm2を超えています。

電波塔

また、電波塔の高周波電磁波の強さは以下の通りです。(Al-Ruwais 2001)

電波塔の高周波電磁波の強さ

高周波電磁波の強さは、電波塔から1000 mの地点でも0.1 μW/cm2を超えています。

携帯基地局や電波塔の高周波電磁波は、危険水準である0.001 μW/cm2の100倍以上ということになります。

携帯電話

比吸収率 (SAR)

携帯電話からの高周波電磁波の強さの指標としては比吸収率 (SAR) が使われます。

これは体内に吸収される電磁波のエネルギー量を表し、単位は W/kgです。

SARは体のある領域における電磁波の吸収量を平均化した値です。

全身平均SAR

体全体における電磁波の吸収量を平均化した値です。

局所SAR

任意の1gか10gの組織における電磁波の吸収量を平均化した値です。

携帯電話のSARは、頭部における局所SARの中で最大のもの、つまり最も電磁波を吸収する領域である、頭部表面における局所SARとなります。

頭部におけるSARの分布
(Gandhi et al. 1996より引用・加筆)

危険水準 (局所SAR)

危険水準として、局所SAR 0.1 W/kgという値が、今まで見てきた研究から読み取ることができます。しかし、すべて動物実験に限られます。

局所SARの危険水準

局所SAR 0.1 W/kg以上という値が危険水準として読み取れます。

携帯電話

一方、最近発売された携帯電話の局所SARの公表値は以下の通りです。

携帯電話の電磁波の強さ

電磁波の強さは、どの製品も局所SAR 0.1 W/kgを超えています。

現行機種のどの携帯電話も、危険水準である局所SAR 0.1 W/kgを超えているということになります。

危険水準 (全身平均SAR)

いくつかの研究では、ラットやマウスにおける全身平均SARを求めています。

危険水準として、全身平均SAR 0.0001 W/kg以上という値が、今まで見てきた研究から読み取ることができます。しかし研究の数は十分でありません。

全身平均SARの危険水準

全身平均SAR 0.0001 W/kg以上という値が危険水準として読み取れます。

培地平均SAR

携帯電話の局所SARは、最も電磁波が吸収される頭部表面における値です。

したがって頭部表面において、携帯電話の電磁波は危険水準である0.0001 W/kgの1000倍以上ということになります。

携帯電話からある程度離れた部位においては、そのSARは不明ですので比較はできません。

しかし仮にSARが最大値から1000分の1まで減衰したとしても、それはいまだ健康に影響を与えるだけの十分なエネルギー量で、人体の様々な部位が損傷を受けることになります。

なぜ研究結果が矛盾するのか

ここまでで電磁波が健康に様々な影響を与えることを示した、多数の研究を見てきました。

しかし一方で、何の影響もないとする多数の研究も同時に存在します。

このような研究結果の矛盾が起きる理由として、一つには利益相反が挙げられます。

利益相反とは、第一の利益(患者の福祉や研究の妥当性など)に関する専門的判断が、第二の利益(金銭的利益など)によって不当に左右されがちな状態を指します。(Thompson 1993)

過去にはタバコの健康影響に関する研究でも、利益相反による研究結果の矛盾がみられました。

つまり電磁波に関する研究でも、同じことが起きていると言えます。

ベッカー博士の著述

ベッカー博士はノーベル賞に2度ノミネートされた、生体電気と再生の分野における先駆的研究者でした。

博士は黎明期における、高圧線などからの電磁波への反対活動を主導していました。

彼は著書「The Body Electric」の中で、軍や産業界がいかに自分たちの利益を優先し、電磁波の危険性を無視し、それを示す研究や科学者を潰そうとしたかを描いています。

Becker 1998

The Body Electric

しかし、安全基準はすでに、すべての研究提案と研究結果が評価されるプロクルーステースの寝台 (厳格な適合が強制される、恣意的な基準) になっていた。低レベルのハザードを調査するための助成金は与えられず、そのような影響を発見した科学者は切り捨てられた。その研究に対する資金はすぐに打ち切られ、悪質な個人攻撃が彼らの評判を貶めた。その後、1,000〜10,000マイクロワットの出力密度による否定できない生物学的変化が指摘され始めると、「示差加熱 (differential heating) 」(特に吸収のよい組織や冷却の不十分な組織におけるホットスポット)という考え方が提唱され、あたかもこの都合のよい説明がすべての危険を回避するかのようにされた。ソ連の研究は、その「粗雑さ」を理由に簡単に割り引くことができたが、アメリカで非加熱危険性が文書化されると、軍や産業界のスポークスマンは、議会や国民に嘘をついて、それを認めようとしなかった。多くの科学者は、当然ながら仕事を続けたかったので、この見せかけに従った。
このパターンは、核実験による放射性降下物の危険性とまったく同じだった。(p306-307)

われわれの生存は、政策を決定する機関への、軍需産業による死の掌握を打ち砕く、誠実な科学者やその他良心的な人々の能力にかかっている。(p329)

かつては、このような性質上の欠陥が科学的真実の認識を完全に妨げることはなかった。論争の両陣営が同じように激しく戦い、より優れた証拠を持つ方が遅かれ早かれ勝利するのが普通だった。しかし、この40年間で、科学機関の構造の変化は、医療における進歩を妨げ、真に新しいアイディアがほとんどすべての状況において公正な審問を受けることを妨げるほど、体制側に偏った状況を生み出した。(p332)

最後に、これらの要因に加えなければならないのは、軍による科学の買収である。これを売春と呼ぶのは、最古の職業に対する侮辱である。1948年の連邦研究予算470億ドルの3分の2近くが軍事研究に使われ、生体電気の分野ではその割合はさらに高かった。軍の後援は、他よりも技術的な革新を容易にすることが多いが、その職員は、科学を現代社会のより広範な懸念と結びつける、環境上の危険やその他の道徳的な問題については口を閉ざさなければならない。長い目で見れば、純粋な知識(もしそのようなものがあるとすれば)の成長でさえ、この鎖につながれた柵の中では花開くことはできない。(p333)

1981年元旦、研究所は消滅した。地元の退役軍人局長は、アンディとジョーに厚かましくも夜間管理職員の仕事を斡旋した。代わりにマリーノはシュリーブポートのルイジアナ州立大学医学部に就職し、今でも小規模ながらpositive silver法を研究している。スパダロもシラキュースにあるニューヨーク州立大学アップステート医科大学で整形外科医として残った。マリア・ライヒマニスは、専門的な科学はもうたくさんだと思い、研究を完全にやめて結婚した。これが、四肢と脊髄の再生を目指して研究していた第一人者のグループの終わりであり、国防総省と産業界の軌道の外にある数少ない生体電磁気学研究所の一つであった。
私がわざわざ私の経験を詳細に語ったのには2つの理由がある。もちろん、私が激怒しているので、それを人々に伝えたいからである。もっと重要なのは、一般の人々に、科学は新聞や雑誌で読んだようには動いていないということを知ってほしいということだ。一般市民には、科学者の発表を額面通りに受け入れることはできないということを理解してほしい。私は、研究者だけでなく科学者でない市民にも、研究の運営方法を変える努力をしてもらいたい。現在のような助成と評価のやり方では、われわれはどんどん学ぶことが少なくなり、科学はわれわれの味方ではなく、敵になりつつある。(p347)

デイビス博士の講演

デイビス博士はアメリカの疫学者で、研究・教育・政策を通じてより健康的な環境を推進するシンクタンク、Environmental Health Trust (EHT) の創立者・代表でもあります。

EHTは米連邦通信委員会 (FCC) を相手取り、ワイヤレス放射線の人体への安全制限をめぐる裁判で勝訴しています。 (Environmental Health Trust)

Environmental Health Trust

EHTが法廷闘争に勝利!

裁判所は、FCCが「委員会の現行規制値以下のレベルのRF放射線への暴露が、癌とは無関係の健康への悪影響を引き起こす可能性があるという記録的証拠」に回答しなかったとした。さらに、FCCは "RF放射による環境被害に関するコメントへの完全な不応答 "を示した。裁判所は、FCCが制限値を更新するよう求めた数多くの団体、科学者、医師を無視し、FCCがこれらの問題に対処しなかったと認定した:
・長期にわたる無線被曝の影響
・子どもへの影響
・ワイヤレス放射によって負傷した人々の証言、
・野生生物や環境への影響
・発達中の脳や生殖への影響

オーストラリアのメルボルン大学における講演で、博士は利益相反による研究結果の矛盾についても語られています。

Youtubeの動画

Davis 2015

2015年のメルボルン大学での講演

(47分25秒~48分40秒)

一貫しない結果がたくさんあります。私はここで、肯定的なものだけを紹介しているのではありません。何も見出さない研究もたくさんあります。なぜでしょうか?

まず第一に、異なる細胞培養を研究することがあります。つまり、成熟した細胞を調べるのであれば、神経幹細胞を調べるよりもはるかに頑強かもしれませんし、これは事実そうでした。また、連続波とデジタルパルス信号、矩形波と正弦波など、被曝方法が異なることもあります。

もうひとつ話しておかなければならないことがあります。それは、オーストラリアがアメリカでなくてよかったと思うもうひとつの理由です。

スポンサー付きの研究は、丁寧に言えば、出版バイアス (否定的な結果が出た研究は公表されにくいこと) を引き起こす可能性があります。別の言い方をすれば、ある問題に対するあなたの立ち位置は、あなたがどこに座り、そして誰があなたの椅子を買ったかによって決まるということです。

そして、影響無しとする研究を行うために雇われた人々による、膨大な量のスポンサー付き研究があります。

それは、政府内部を含め、いくつかの国々でこの分野を蝕んでいます。

(14分50秒~15分30秒)

さて、基準値が策定された黎明期にさかのぼりますが、ある二次元モデリングにおいて、子どもや小柄な大人は大柄な大人よりも放射線を多く吸収するであろうことが示されました。

これは1996年にオム・ガンジーが行ったスカラーモデリングで、今は使われていません。

興味深いことに――Dean、だから私は今ここにいて良かったと思うのですが――彼がこの仕事をした1996年当時は、モトローラと国防省の支援を得て仕事をしていました。

そしてこれを発表した後、彼はすべての資金を失いました。

タバコ業界における利益相反

電磁波の健康影響に関する研究結果の矛盾は、かつてのタバコ産業のそれと似ています。

以下の2012年の論文は、タバコ業界が「発明」した利益相反について述べています。

Brandt 2012

利益相反の発明: タバコ産業の戦術史

喫煙の害について、専門家の査読を経た説得力のある科学的証拠に直面したタバコ産業は、1950年代から、新たな科学を弱体化させ、歪曲させるために、洗練された広報活動を行った。

業界のキャンペーンは、産学間の利益相反を作り出すことに依存したプログラムを通じて、科学的論争を作り出すことに努めた。科学的不確実性を作り出すこの戦略は、喫煙の害を減らすための公衆衛生の努力や規制介入を弱体化させた。

その後、多くの産業界が、規範となる科学を混乱させるこのアプローチを踏襲してきた。科学的不確実性と証拠不足の主張は、産業界が作り出した健康リスクに対する個人の責任を主張することにもつながる。

記事の最初に戻る

石塚 拓磨

石塚 拓磨

北海道函館市在住。大学では情報工学を専攻し、エンジニアとして10年以上の経験があります。
このサイトを通じて少しでも多くの人が電磁波の危険性について気づいていただければ幸いです。

health

ja

翻訳中