電磁波の健康影響を示す多数の研究

脳機能の異常

 

電磁波被曝により、子どもの問題行動やADHD、アルツハイマーやALSなどの神経変性疾患、うつ病、自殺、電磁波過敏症、体内時計の乱れ、神経伝達障害が増加することが示されています。

近年、学力は低下傾向にあり、ADHDや自閉症などの発達障害、アルツハイマーやALSや多発性硬化症などの神経変性疾患、うつ病や自殺は増加傾向にあります。

これらの異常のいくつかは、携帯電話の商用サービス開始に合わせて増加が始まっており、電磁波はその増加の主要因として疑われます。

近年の傾向

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問題行動・ADHD

子ども・青年の携帯電話や携帯基地局やWi-Fiなどからの電磁波被曝により、問題行動やADHDが増加し、また記憶力が低下したことを示す研究を紹介します。

また、妊娠中の女性の携帯電話の電磁波被曝により、生まれた子どもの問題行動が増加したことを示す研究を紹介します。

これらは電磁波が胎児や子ども、青年の脳に何らかの悪影響を与えているためと考えられます。

実際、後述する動物実験においては、携帯電話などからの電磁波被曝によって、胎児・幼獣のラットやマウスの脳が損傷、脳細胞が減少したことが示されています。

研究紹介

Thomas et al. 2009

ドイツのバイエルン州の4都市の8歳-12歳の子どもと13歳-17歳の青年について、携帯電話、携帯基地局、Wi-Fiから日中に被曝する高周波電磁波が強くなるほど、問題行動が増加しました。

問題行動の増加

青年の問題行動のオッズが、携帯電話・携帯基地局・Wi-Fiからの高周波電磁波の強さが上位25%で4倍になりました。

子ども青年

また、高周波電磁波が強くなるほど、中高生の多動性が増加しました。

多動性の増加

青年の多動性のオッズが、携帯電話・携青年の多動性のオッズが帯基地局・Wi-Fiからの高周波電磁波の強さが上位25%で2倍になりました。

Divan et al. 2008

デンマーク全土から募った妊娠中の研究参加者について、出産前後、特に出産前に携帯電話を利用していると、生まれた子どもが7歳の時に問題行動が増加しました。

問題行動の増加

男の子が7歳の時の問題行動のオッズが、出産前後の携帯電話の利用で2倍になりました。

男児女児
Guxens et al. 2013

オランダのアムステルダムの妊娠中の女性について、妊娠中に携帯電話を使用していると、生まれた子どもが5歳の時に問題行動が増加しました。

問題行動の増加

子どもが5歳の時の問題行動のオッズが、妊娠中に携帯電話を使用していると2倍になりました。

Byun et al. 2013

韓国の27の小学校の3年生と5年生について、携帯電話でインターネットを利用していると、また携帯電話でのゲーム時間や電話時間が長くなるほど、ADHDが増加しました。

インターネットでADHDの増加

小学3年生のADHDのオッズが、携帯電話でのインターネット利用で3倍になりました。

3年生5年生
ゲームでADHDの増加

小学3年生のADHDのオッズが、携帯電話でのゲーム時間が1日3分以上で2倍になりました。

3年生5年生
電話でADHDの増加

小学3年生のADHDのオッズが、携帯電話での1回の電話時間が1分超で3割増加しました。

3年生5年生

その他の観察結果として、血液中の鉛濃度が高い児童に限定すると、ADHDがより増加しました。

Ghadamgahi et al. 2016

イランのテヘランの4つの小学校の10-12歳の生徒について、変電所に近隣する学校に通学してると、児童向けウェクスラー式知能検査のワーキングメモリ指標が低下しました。

記憶力の低下

知能検査のワーキングメモリ指標が、小学生が変電所に近隣する学校へ通学していると、1割減少しました。

神経変性疾患

次に、主に高齢者の電磁波被曝によって、アルツハイマーやALSなどの神経変性疾患が増加したことを示す研究を紹介します。

また携帯電話からの電磁波被曝により、女性の多発性硬化症が増加したことを示す研究も紹介します。

研究紹介

Feychting et al. 1998

スウェーデンの双子の名簿に登録された50歳以上の大人について、職場の低周波電磁波が強くなるほど、認知症、アルツハイマー病が増加しました。

特に75歳以下の比較的若い方でそれが顕著でした。

認知症の増加

認知症のオッズが、職場の低周波電磁波が0.2μT超で4倍、75歳以下では6倍になりました。

アルツハイマー病の増加

アルツハイマー病のオッズが、職場の低周波電磁波が0.2μT超で3倍、75歳以下では5倍になりました。

Sobel et al. 1995

南カリフォルニア大学、ヘルシンキ大学、ヘルシンキのコスケラ病院の患者について、職場の低周波電磁波が強いと、アルツハイマー病が増加しました。

特に女性の間でそれが顕著でした。

アルツハイマー病の増加

アルツハイマー病のオッズが、職場の低周波電磁波が0.2μT以上で3倍、女性の間では4倍になりました。

Håkansson et al. 2003

スウェーデンのエンジニアリング産業の労働者について、職場の低周波電磁波が強くなるほどアルツハイマー病とALSでの死亡が増加しました。

アルツハイマー病の増加

アルツハイマー病の死亡リスクが、職場の低周波電磁波が0.53μT以上で4倍になりました。

ALSの増加

ALSの死亡リスクが、職場の低周波電磁波が0.53μT以上で2倍になりました。

Luna et al. 2019

フランスのリムーザン地方の住人について、携帯基地局からの高周波電磁波が強くなるほど、ALSが増加しました。

ALSの増加

ALSのリスクが、携帯基地局からの高周波電磁波が0.105 μW/cm2以上で8割増加しました。

空間インピーダンス377Ωとして、論文記載の電界の強さから計算。

Harbo Poulsen et al. 2012

デンマーク全土の18-64歳の女性について、携帯電話の利用が長期化すると、多発性硬化症の発症と死亡が増加しました。

多発性硬化症の増加

多発性硬化症の罹患率が、携帯電話の10年以上の利用で2倍、13年以上で3倍になりました。

罹患死亡

また、医師に診断された年でなく、最初に症状が現れた年でみた場合、多発性硬化症の増加度が大きくなりました。

多発性硬化症の増加

多発性硬化症の罹患率が、携帯電話の10年以上の利用で7倍になりました。

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脳の損傷

次に、携帯電話などからの電磁波被曝により、ラットやマウスの脳の様々な部位において損傷が起きることを示した研究を紹介します。

ダークニューロン

脳組織が損傷を受けると、ダークニューロンと呼ばれる、収縮し濃く染色されたニューロンが現われます。ダークニューロンは、死にかけまたは変性しているニューロンとみなされています。(JORTNER 2006)

ダークニューロン (矢印頭) と正常なニューロン (矢印)
(JORTNER 2006から引用)

電磁波被曝を受けたマウスやラットの脳内にもダークニューロンが出現することを多くの研究が示しており、電磁波が脳を損傷していることを示唆します。

海馬の損傷

海馬は記憶と学習に関わる脳の部位で、アンモン角と歯状回と呼ばれる2つの主要な領域を含んでいます。

歯状回とアンモン角の主要な細胞は、それぞれ顆粒細胞と錐体細胞です。

海馬の構造
(Nilufer Yonguc et al. 2012から引用・加筆)

アルツハイマー病の病理は海馬の委縮から始まり、ADHDの児童においては海馬の体積が減少しており、うつ病においても海馬が萎縮していることが示されています。(Dhikav and Anand 2011, Hoogman et al. 2017, Videbech 2004)

また海馬の萎縮を伴う病気においては、記憶力の低下も合わせてみられます。(Deweer et al. 1995, Isaacs et al. 2000, Aanes et al. 2019, Sheline et al. 1999)

そして電磁波被曝により、ラットの海馬が損傷をうけ、顆粒細胞や錐体細胞の数が減少することが示されています。

プルキンエ細胞の損傷

小脳皮質は運動制御・運動学習等に関わる脳の部位で、分子層、プルキンエ細胞層、顆粒細胞層の3層で構成されています。

このうちプルキンエ細胞は小脳皮質からの主要な出力を担っています。

小脳皮質の構造
(Gupta et al. 2001から引用)

プルキンエ細胞の顕著な喪失は、自閉症において最も一貫した所見です。 (Kinnear Kern 2003)

そして電磁波被曝により、ラットの小脳皮質のプルキンエ細胞が変性し、その数が減少することが示されています。

髄鞘の損傷

ニューロンは髄鞘と呼ばれる鞘状の脂質層に包まれています。髄鞘は神経伝達速度を向上させるという役割があります。

この髄鞘の損傷は多発性硬化症といった脱髄疾患につながります。

そして電磁波被曝により、ラットやマウスの髄鞘が損傷を受けることが示されています。

研究紹介

Salford et al. 2003

青年・成人に相当する生後12-26週のラットが、携帯電話の電磁波を全身平均SAR 0.002-0.2 W/kgで2時間だけ被曝しました。

するとラットの脳において、脳血液関門が漏洩し、海馬・大脳皮質・大脳基底核でダークニューロンが増加しました。

脳血液関門の漏洩
脳の断面図(被曝無し)
対照群
脳の断面図(被曝有り)
携帯電話

携帯電話の電磁波被曝で脳血液関門が破れてアルブミンが漏洩しました。

ダークニューロンの増加 1
海馬歯状回(被曝有り)
携帯電話
大脳皮質(被曝有り)
携帯電話

携帯電話の電磁波被曝で大脳皮質と海馬歯状回でダークニューロンが増加しました。

ダークニューロンの増加 2

ダークニューロンが、全身平均SARが大きくなるほど増加しました。

Odaci et al. 2008

妊娠中のラットが、900MHzの高周波電磁波を局所SAR 2 W/kgで1日1時間、妊娠全期の3週間被曝しました。

すると生まれた仔ラットの脳において、海馬歯状回の顆粒細胞がダークニューロン化し、顆粒細胞の数が減少しました。

ダークニューロン化
海馬歯状回(被曝無し)
対照群
海馬歯状回(被曝有り)
電磁波
海馬歯状回の拡大図(被曝無し)
対照群
海馬歯状回の拡大図(被曝有り)
電磁波

妊娠中の電磁波被曝で仔ラットの海馬歯状回に、ダークニューロンとみられる、縮んで暗く染まった顆粒細胞が多数出現しました。

脳細胞の減少

仔ラットの海馬歯状回の顆粒細胞の数が、妊娠中の電磁波被曝で2割減少しました。

Bas et al. 2009

妊娠中のラットが、900MHzの高周波電磁波を局所SAR 2 W/kgで1日1時間、妊娠全期の3週間被曝しました。

すると生まれた仔ラットの脳において、海馬アンモン角の錐体細胞がダークニューロン化し、錐体細胞の数が減少しました。

ダークニューロン化
海馬アンモン角(被曝無し)
対照群
海馬アンモン角(被曝有り)
電磁波
海馬アンモン角の拡大図(被曝無し)
対照群
海馬アンモン角の拡大図(被曝有り)
電磁波

妊娠中の電磁波被曝で仔ラットの海馬アンモン角に、ダークニューロンとみられる、縮んで黒く染まった錐体細胞が多数出現しました。

脳細胞の減少

仔ラットの海馬アンモン角の錐体細胞の数が、妊娠中の電磁波被曝で2割減少しました。

Akakin et al. 2020

局所SAR 1.79 W/kgの携帯電話を飼育ケージの上に設置して、1日2時間会話中にし、妊娠中のラットがその電磁波を妊娠初期の1週間被曝、さらに生まれた仔ラットが2ヶ月間被曝しました (乳児・子ども期に相当)

すると仔ラットの脳において、大脳皮質・海馬歯状回・海馬アンモン角が損傷し、また三叉神経とその髄鞘が損傷しました。

脳損傷
大脳皮質(被曝無し)
対照群
大脳皮質(被曝有り)
携帯電話

胎児・乳児・子ども期の携帯電話の電磁波被曝で大脳皮質に無数の空胞が発生し、ダークニューロンとみられる、縮んで暗く染まった神経細胞が多数出現しました。

海馬歯状回(被曝無し)
対照群
海馬歯状回(被曝有り)
携帯電話

胎児・乳児・子ども期の携帯電話の電磁波被曝で海馬歯状回に無数の空胞が発生し、ダークニューロンとみられる、縮んで暗く染まった神経細胞が多数出現しました。

海馬アンモン角(被曝無し)
対照群
海馬アンモン角(被曝有り)
携帯電話

胎児・乳児・子ども期の携帯電話の電磁波被曝で海馬アンモン角に無数の空胞が発生し、ダークニューロンとみられる、縮んで暗く染まった神経細胞が多数出現しました。

三叉神経と髄鞘(被曝無し)
対照群
三叉神経と髄鞘(被曝有り)
携帯電話
三叉神経と髄鞘の拡大図(被曝無し)
対照群
三叉神経と髄鞘の拡大図(被曝有り)
携帯電話

胎児・乳児・子ども期の携帯電話の電磁波被曝で三叉神経の軸索とその髄鞘が損傷しました。

Kim et al. 2017

子ども・青年に相当する生後6週のマウスに835MHzの高周波電磁波を局所SAR 4 W/kgで1日5時間、12週間被曝させました。

するとマウスの脳において、大脳皮質の髄鞘が損傷しました。

また多動性の増加もみられましたが、これについては多動性増加の所で紹介しています。

髄鞘の損傷
髄鞘その1(被曝無し)
対照群
髄鞘その1(被曝有り)
電磁波
髄鞘その2(被曝無し)
対照群
髄鞘その2(被曝有り)
電磁波

電磁波被曝で大脳皮質の髄鞘が損傷しました。

Sonmez et al. 2010

青年に相当する生後16週のメスラットが、900MHzの高周波電磁波を局所SAR 2 W/kgで1日1時間、4週間被曝しました。

するとラットの脳において、小脳皮質のプルキンエ細胞の数が減少しました。

脳細胞の減少 1
小脳皮質(被曝無し)
対照群
小脳皮質(被曝有り)
電磁波
小脳皮質の拡大図(被曝無し)
対照群
小脳皮質の拡大図(被曝有り)
電磁波

電磁波被曝で小脳皮質のプルキンエ細胞が減少しました。

脳細胞の減少 2

小脳皮質のプルキンエ細胞が、電磁波被曝で1割減少しました。

Ali et al. 2020

第二世代 (2G)、第三世代 (3G)、第四世代 (4G) のスマホを飼育ケージの棚に設置し、1日1時間データ通信中にし、青年に相当する生後3-4ヶ月のラットがその電磁波を2ヶ月間被曝しました。

するとラットの脳において、スマホの通信方式が新しくなるほど、小脳皮質のプルキンエ細胞のダークニューロン化が進行しました。(※)

ただし通信データが2Gはインターネット通信、3Gは音声通話、4Gはビデオ通話とそれぞれ異なるため、単純比較はできません。

局所SARは2Gスマホが0.603 W/kg、3Gスマホが不明、4Gスマホが0.628 W/kgでした。

ダークニューロン化
小脳皮質(被曝無し)
対照群
小脳皮質(2Gスマホ)
2Gスマホ
小脳皮質(3Gスマホ)
3Gスマホ
小脳皮質(4Gスマホ)
4Gスマホ

スマホの電磁波被曝で小脳皮質に、ダークニューロンとみられる、縮んで暗く染まったプルキンエ細胞が多数出現しました。

Megha et al. 2015

オスラットが900MHz、1800MHz、2450MHzの高周波電磁波をそれぞれ全身平均SAR 0.00059 W/kg、0.00058 W/kg、0.00066 W/kgで1日2時間、60日間被曝しました。

するとラットの海馬において、電磁波の周波数が高くなるほど、活性酸素が増加し、炎症反応が増加し、DNA切断が増加しました。

活性酸素の増加

海馬において脂質過酸化の指標であるマロンジアルデビドが、電磁波の周波数が高くなるほど増加しました。

MDAGSHSODCAT

脂質過酸化の増加と抗酸化活性の減少は活性酸素の増加を意味します。

炎症反応の増加は、炎症反応を促進する働きをもつ、炎症性サイトカインの増加で示されました。

炎症反応の発生

海馬において炎症性サイトカインであるTNF-αが、2450 MHzの高周波電磁波の被曝で7割増加しました。

TNF-αIFN-γIL-6IL-2

DNAの切断はコメットアッセイで検出します。コメットアッセイにおいては、DNA切断が多くなるほど、Tail DNAは多くなり、Tail Lengthは長くなり、Olive Tail Momentは大きくなります。

DNA切断の増加

海馬においてDNA切断の指標であるTail DNAが、2450 MHzの高周波電磁波の被曝で2.7倍になりました。

Tail DNATail LengthOlive Tail Moment

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脳損傷の結末

携帯電話などからの電磁波波被曝で、ラットやマウスの脳の様々な部位において損傷が起きることを見てきました。

損傷部位は海馬、小脳皮質のプルキンエ細胞、髄鞘などでした。

これらの損傷部位に関連している疾患として、以下を冒頭で紹介しました。

海馬

アルツハイマー病、ADHD、うつ病、記憶力低下

小脳皮質のプルキンエ細胞

自閉症

髄鞘

多発性硬化症などの脱髄疾患

これらは自閉症を除けば、すべて電磁波被曝で人のリスク上昇が示されている疾患です。

つまり今みてきた動物実験は、人における知見にある程度の裏付けを与えるものであるといえます。

自閉症に関して言えば、以下のような提言がなされています。

Herbert and Sage 2013

DNA損傷、免疫および脳血液関門の破壊、細胞および酸化ストレス、カルシウムチャネル・概日リズムの乱れ、ホルモン調節障害、および認知・睡眠・自律神経調節・脳波活動の劣化はすべて、自閉症スペクトラムと電磁波の共通点であり、電磁波に関連する生殖能力と生殖機能の障害もまた、自閉症スペクトラムの発症率の上昇に関係している可能性がある。

報告されている自閉症スペクトラムの劇的な増加は、ワイヤレス技術の普及と時を同じくしており、我々は潜在的な自閉症スペクトラムと電磁波の関連性を積極的に調査する必要がある。

しかしそのような関連性を調べた疫学は、現時点では存在しないようです。

記憶力低下

次に、携帯電話などからの電磁波被曝により、ラットやマウスの記憶力が低下したことを示す研究を紹介します。

研究紹介

İkinci et al. 2013

妊娠中のラットが900MHzの高周波電磁波を1日1時間、妊娠後期の1週間被曝しました。

続いて生まれた娘ラットに放射状迷路テストと受動的回避行動テストを受けさせました。

するとラットは記憶力の低下を示しました。

放射状迷路テスト

放射状迷路テストとは、空間学習と記憶を測定するテストです。

(O’Hara & Co., Ltd.から引用)

装置の8本の腕の先端に餌を配置し、空腹のラットが餌をとってまわります。

効率的に餌をとるには、自分が既に訪れた腕を記憶しておき、そこにはいかないようにすることが必要です。

正しい腕 (餌有り) の選択にかかった時間と、間違った腕 (餌無し) の選択回数で記憶力を評価します。

記憶力の低下

正しい腕の選択にかかった時間が、妊娠中の電磁波被曝で4倍になりました。つまり娘ラットは一度選択した腕を忘れてしまっており、記憶力が低下したといえます。

所要時間間違い数

受動的回避行動テスト

まず訓練の段階として、暗い部屋と明るい部屋に分かれた箱にラットを入れます。

(E-­PHY-SCIENCEから引用)

ラットは暗いところが好きなので暗い部屋に入ります。

しかし暗い部屋に入るとラットは床から軽い電気ショックを受けます。

続いて記憶力テストの段階として、しばらく時間がたってからラットを同じ箱に入れます。

正常なラットであれば、暗い部屋に入るのを嫌がります。

一方、記憶力の無いラットは、電撃を受けたことを忘れているので、入室までにかかる所要時間が短くなります。

従って入室までにかかる所要時間で、記憶力を評価することができます。

記憶力の低下

暗室入室までの所要時間が、妊娠中の電磁波被曝で4割減少しました。つまり娘ラットは一度電撃を受けたことを忘れてしまっており、記憶力が低下したといえます。

Narayanan et al. 2009

携帯電話を飼育ケージの床下に設置し、1日50分着信中にし、青年に相当する生後10-12週のオスラットがその電磁波を4週間被曝しました。

続いてラットにモーリスの水迷路テストを受けさせました。

するとラットは記憶力の低下を示しました。

モーリスの水迷路テスト

モーリスの水迷路テストは空間記憶力を評価する試験です。

まず、ラットを不透明なプールの中に浮かべます。

(ULTRABEMから引用)

プールには見えないように逃避台が設置されておりラットはそこに辿り着くと登って休むことができます。

逃避台の場所は装置に設置された図形を手がかりにして記憶します。

何回か訓練を行ったあとでは記憶力が高いラットほど逃避台に辿り着くまでの時間が短くなります。

訓練期間中には、合計7回の訓練を実施して、逃避台にどりつくまでの時間を測定します。

そして、最後の訓練の24時間後に、逃避台を除去して試験を実施します。

逃避台があった場所への到達時間と、滞在時間で記憶力を評価します。

記憶力の低下 (訓練)

何回訓練しても逃避台にたどり着くまでの時間に差が開いたままです。つまり携帯電話の電磁波被曝でラットは記憶力が低下したと言えます。

記憶力の低下 (試験)

逃避台があった場所への到達時間が、携帯電話の電磁波被曝で3倍になりました。つまりラットは逃避台の場所を忘れてしまっており、記憶力が低下したと言えます。

到達時間滞在時間
Narayanan et al. 2010

携帯電話を飼育ケージの床下に設置して、1日38分着信中にし、青年に相当する生後8-10週のオスラットがその電磁波を4週間被曝しました。

続いてラットに受動的回避行動テストを受けさせました。

するとラットは記憶力の低下を示しました。

受動的回避行動テスト1

まずラットを暗い部屋と明るい部屋に分かれた箱に入れます。

この実験の最初の手順では、暗室の感電装置はオフになっています。

(E-­PHY-SCIENCEから引用)

そして暗室入室までにかかる時間を3回測定し、記憶力を評価します。

記憶力の低下 (電撃無)

再度の暗室入室までの時間が、携帯電話の電磁波被曝で2-3倍になりました。つまりラットは暗室が安全であることを忘れてしまっており、記憶力が低下したと言えます。

初回の入室再度の入室

受動的回避行動テスト2

この実験の次の手順では、感電装置をオンにし、ラットを一度感電させます。

そして24時間、48時間後に箱の中に入れ、暗室入室までの時間を測定して記憶力を評価します。

記憶力の低下 (電撃有)

再度の暗室入室までにかかる時間が、携帯電話の電磁波被曝で7-8割減少しました。つまりラットは一度感電したことを忘れてしまっており、記憶力が低下したと言えます。

Gao et al. 2017

成人に相当する生後10-12週のオスマウスが、強さ200μTで50 Hzの低周波電磁波を1日8時間、30日間被曝しました。

続いてマウスにモーリスの水迷路テストを受けさせました。

すると脳内における活性酸素が増加し、マウスは記憶力の低下を示しました。

また抗酸化作用のあるカテキン・エピカテキンの投与は、上記の被害を抑制しました。

活性酸素の増加

脂質過酸化の指標であるマロンジアルデビドが、電磁波被曝で2倍になりました。抗酸化作用のあるカテキン・エピカテキンの投与はそれを抑えました。

脂質酸化抗酸化物質 1抗酸化物質 2

モーリスの水迷路テスト

まずモーリスの水迷路テストの訓練を1日4回、6日連続で実施します。

(ULTRABEMから引用)

そして6日目の最後の訓練から3時間後に、逃避台を除去して試験を実施します。

逃避台があった場所への到達時間と、滞在時間で記憶力を評価します。

記憶力の低下

逃避台があった場所への到達時間が、電磁波被曝で2割増加しました。つまりマウスは逃避台の場所を忘れてしまっており、記憶力が低下したと言えます。抗酸化作用のあるカテキン・エピカテキンの投与はそれを抑えました。

到達時間滞在時間
Nittby et al. 2007

青年に相当する生後16-24週のラットが、携帯電話の電磁波を全身平均SAR 0.0006 W/kgまたは0.06 W/kgで1日2時間、55週間被曝しました。

続いてラットにエピソード的記憶テストを受けさせました。

するとラットは記憶力の低下を示しました。

エピソード的記憶テスト

まず訓練の段階として、最初にラットに4つの立方体の物体を探索させます。

続いて50分後に、4つの円柱の物体を探索させます。

さらに50分後に試験の段階として、2つの円柱の物体を昔馴染みの2つの立方体の物体に置き換えて、ラットに探索させます。

通常のラットであれば、最近馴染んだ物体より、昔馴染んだ物体をより長く探索します。

これはラットが過去に起きた出来事 (エピソード) をちゃんと記憶していることの現れとなります。

一方、過去の出来事を忘れてしまった記憶力の無いラットでは、最近馴染んだ物体と昔馴染んだ物体の間で、探索時間に差が現れなくなるものと考えられます。

それぞれの物体の探索時間を測定し、記憶力を評価します。

記憶力の低下

携帯電話の電磁波被曝により、最近馴染んだ物体と昔馴染んだ物体の間で、探索時間に差がなくなりました。つまりラットは過去の出来事を忘れてしまっており、記憶力が低下したと言えます。

探索時間探索時間の比

携帯電話の電磁波が、全身平均SAR0.0006W/kgという微弱な強さでも生体効果を示したことは、特筆すべき点といえます。

Maaroufi et al. 2014

子どもに相当する生後4週のオスラットに、900MHzの高周波電磁波を局所SAR 0.05-0.18 W/kgで1日1時間、3週間被曝させました。

続いてラットに物体探索テストを受けさせました。

するとラットは認知機能の低下を示しました。

また神経伝達物質モノアミンの乱れも認められましたが、これについては神経伝達障害の所で紹介しています。

物体探索テスト

1回4分、計8回のセッションを行い、ラットに物体を探索させます。

各セッションには4分間のインターバルをもうけます。

まずセッション1-5にかけては、同じ配置の物体に慣れさせます。

続いてセッション6では三角形の物体の位置を変えます (空間変化)。

ここで空間変化の前後で、それぞれ三角形の物体の探索時間を測定し、その差を探索スコアとします。

通常のラットであれば位置が変わった物体を長く探索するため、探索スコアが大きくなります。

逆に認知機能が低下したラットでは空間変化が認識できず、物体の探索時間が変わらなくなり、探索スコアが小さくなるはずです。

また、セッション8では四角の物体を丸い物体へと変えます (物体変化)。

ここで丸い物体 (E) の探索時間とそれ以外の3つの物体 (B、C、D) の平均探索時間を測定し、その差を探索スコアとします。

通常のラットであれば目新しい物体を長く探索するため、探索スコアは大きくなります。

逆に認知機能が低下したラットでは物体変化が認識できず、物体の探索時間が変わらなくなり、探索スコアが小さくなるはずです。

認知機能の低下 (空間変化)

空間変化の探索スコアが、電磁波被曝で0点になりました――つまり物体の位置を変える前と後で探索時間に全く差が無くなりました。すなわちラットは空間変化を全く認識できておらず、認知機能が低下したといえます。

認知機能の低下 (物体変化)

物体変化の探索スコアが、電磁波被曝で大きく減少しました――つまり目新しい物体とそれ以外の物体で探索時間に大きな差は無くなりました。すなわちラットは物体変化をあまり認識できておらず、認知機能が低下したといえます。

海馬に損傷を受けたラットは、空間変化を認識できなくなることが示されています。(Save et al. 1992, Lee et al. 2005)

被曝群のラットは空間変化を全く認識できなかったため、海馬に損傷を受けていた可能性が高いといえます。

多動性

次に、携帯電話などからの電磁波被曝により、マウスが多動になったことを示す研究を紹介します。

研究紹介

Kim et al. 2017

子ども・青年に相当する生後6週のマウスに、835MHzの高周波電磁波を局所SAR 4 W/kgで1日5時間、12週間被曝させました。

続いてマウスにオープンフィールド試験を受けさせました。

するとマウスは多動性を示しました。

また大脳皮質の髄鞘の損傷もみられましたが、これについては脳損傷の所で紹介しています。

オープンフィールド試験

オープンフィールド試験とは、マウスを四角形の空間で自由に行動させ、その行動を観察する試験です。

(Behavioral Research Blogから引用)

30分間マウスを自由に行動させ、移動距離、移動時間、立ち上がる回数を測定し、多動性を評価します。

多動性の増加

移動距離が、電磁波被曝で3割増加しました。マウスはより多動になったと言えます。

移動距離移動時間立ち上がる回数
Aldad et al. 2012

局所SAR 1.6 W/kgの携帯電話を飼育ケージの上に設置して、常時通話中にし、妊娠中のマウスがその電磁波を妊娠全期の3週間被曝しました。

続いて生まれた仔マウスに物体認識記憶テスト、明暗箱テスト (Light-dark box test) を受けさせました。

するとマウスは記憶力の低下、多動性、不安の低下を示しました。

また、成長してもその傾向は維持されていました。

物体認識記憶テスト

テスト1日目と2日目に、マウスは2つの同じ物体を15分間探索します。

テスト3日目には片方の物体を新しい物体に置き換えて、15分間2つの物体を探索します。

ここで、2つの物体の探索時間を測定します。

通常のラットであれば目新しい物体の探索時間が長くなります。

一方、馴染みの物体を忘れてしまった記憶力の無いラットでは、探索時間に差が現れなくなるはずです。

選好指数として、新物体の探索時間を新旧両方の物体の探索時間で割って100を掛けた値を定義し、これを用いて記憶力を評価します。

記憶力の低下

選好指数が、妊娠中の携帯電話の電磁波被曝でほぼ50になりました――つまり目新しい物体と馴染みの物体の探索時間に差がなくなりました。すなわち仔マウスは物体の区別がついておらず、記憶力が低下したと言えます。

生後8週生後12週生後16週

明暗箱テスト

ケージを暗い部屋と明るい部屋に分けて、マウスをその中に入れます。

(E-­PHY-SCIENCEから引用)

5分間中に暗室に滞在する時間で不安を評価します。

また、5分間中に明室と暗室を遷移した回数で多動性を評価します。

多動性の増加

暗室と明室の遷移回数が、妊娠中の携帯電話の電磁波被曝で2倍になりました。仔マウスはより多動になったといえます。

生後12週生後15週生後18週
不安の低下

暗室での滞在時間が、妊娠中の携帯電話の電磁波被曝で1割減少しました。仔マウスは不安が低下したと言えます。

生後12週生後15週生後18週

うつ病・自殺

次に、高圧線や携帯電話や職場などからの電磁波被曝により、うつ病・自殺が増加したことを示す研究を紹介します。

研究紹介

Verkasalo et al. 1997

フィンランドの双子の名簿に登録された33歳から60歳の大人について、高圧線の近くに住んでいると、また高圧線からの低周波電磁波が強くなると、重度のうつ病が増加しました。

重度のうつ病の増加

重度のうつ病のオッズが、高圧線の低周波電磁波が0.1μT以上で15倍になりました。

高圧線までの距離電磁波の強さ

一方、軽度のうつ病は逆に減少しました。

軽度のうつ病の減少

軽度のうつ病のオッズが、高圧線の低周波電磁波が0.1μT以上で5割減少しました。

高圧線までの距離電磁波の強さ
Tamura et al. 2017

岐阜県のとある県立高校の生徒について、1日の携帯電話の利用時間が長くなると、不眠症とうつ病が増加しました。

アプリ別では、SNS (例:フェイスブック、ツイッター、インスタグラム)、インターネット検索、オンラインチャット (例:ライン、スカイプ、カカオトーク) の利用で増加が確認されました。

不眠症とうつ病の増加

携帯電話の1日5時間以上の利用で、高校生の不眠症のオッズが4倍、うつ病のオッズが2倍になりました。

アプリ別にみた不眠症の増加

高校生の不眠症のオッズが、携帯電話での1日2時間以上のSNSの利用で3倍、インターネット検索で3倍、オンラインチャットで3倍になりました。

アプリ別にみたうつ病の増加

高校生のうつ病のオッズが、携帯電話での1日2時間以上のSNSの利用で4倍、インターネット検索で4倍、オンラインチャットで3倍になりました。

van Wijngaarden 2000

アメリカの大手電力会社5社の男性従業員について、職場での低周波電磁波の前年の累積被曝量が多くなるほど、自殺が増加しました。

特に35歳未満、また35-49歳の比較的若い年齢層の間で、それが顕著になりました。

自殺の増加

自殺のオッズが、職場での低周波電磁波の前年の累積被曝量が上位10%で7割増加しました。

30歳未満の自殺の増加

自殺のオッズが、職場での低周波電磁波の前年の累積被曝量が上位50%で2倍になりました。

35-49歳の自殺の増加

自殺のオッズが、職場での低周波電磁波の前年の累積被曝量が上位50%で4倍になりました。

Baris and Armstrong 1990

イングランドとウェールズの電力会社の男性従業員について、低周波電磁波を被曝する職種に就いていると、自殺が増加しました。

自殺の増加

全死因のうち自殺が占める割合が、radio and radar mechanicsとelectronic mechanicsで2倍、telegraph radio opperatorsで3倍になりました。

もっとみる (2件)

電磁波過敏症

次に、携帯基地局、電波塔、携帯電話からの電磁波被曝により、電磁波過敏症が増加したことを示す研究を紹介します。

電磁波過敏症とは何か?

電磁波過敏症とは、過度の疲労感、頭痛、耳鳴り、不眠症、羞明、認知機能障害や記憶障害、易怒性 (イライラ)、様々な部位の疼痛、しばしば心血管系の異常、などの症状の一部または全部を含む症候群です。(Carpenter 2015)。

電磁波過敏症は、以前は「マイクロ波症候群」と呼ばれていたもので、環境中の電磁波の急性または慢性的な被曝により発症します。(Stein and Udasin 2020)。

電磁波過敏症

研究紹介

Santini et al. 2002

フランス全土から募った研究参加者について、自宅から携帯基地局までの距離が短くなるほど、電磁波過敏症が増加しました。

電磁波過敏症の増加

電磁波過敏症の訴えの報告が、自宅から携帯基地局までの距離が短くなるほど増加しました。

症状 1症状 2症状 3症状 4
Abelin et al. 2005

当時、スイスのシュヴァルツェンブルクにある短波無線送信機の近くに住む住民が、神経過敏、頭痛、睡眠障害、精力減退などの症状を訴えて、政府に嘆願書を提出していました。

政府はこの状況を調査することに同意し、本研究が着手されました。

高周波電磁波の強さは、送信機の900m以内で0.3 μW/cm2、900-1500mで0.17 μW/cm2、1500m超で0.0004 μW/cm2でした。(※)

空間インピーダンス377Ωとして、論文記載の磁界の強さから計算。

シュヴァルツェンブルクの地図

調べたところ、自宅から短波無線送信機までの距離が短いほど、電磁波過敏症が増加しました。

電磁波過敏症の増加

電磁波過敏症の訴えの報告が、自宅から短波無線送信機までの距離が短いほど増加しました。

症状 1症状 2症状 3症状 4
Preece et al. 2006

アクロティリはキプロスにあるイギリス主権基地地域のひとつで、軍事空軍基地が存在します。

当時、基地には大型なアンテナが設置されており、新たにより大型なアンテナを建設する計画が提案されていました。

住民からはがんや生殖に関する懸念の声が上がり、市民集会で健康調査を求める呼びかけが行われました。

当局はこれに同意し、本研究が着手されました。

高周波電磁波の強さはアクロティリで0.086 μW/cm2、隣のアソマトスで0.056 μW/cm2、対照の山村で0.00002 μW/cm2でした。(※)

空間インピーダンス377Ωとして、論文記載の電界の強さから計算。

キプロスのアクロティリ周辺の地図
(Google Mapより引用・加筆)

調べたところ、居住地域の電磁波が強くなるほど、電磁波過敏症が増加しました。

がんや生殖への影響は無かったとのことですが、検証可能なデータは提示されていません。

電磁波過敏症の増加

片頭痛のオッズが、高周波電磁波の強さが0.056μW/cm2で2倍、0.086μW/cm2で3倍になりました。

片頭痛頭痛めまいうつ病
Sandstrom 2001

ノルウェー南部で無作為に選出した社用携帯電話の利用者について、1日の携帯電話での通話時間が長くなるほど、電磁波過敏症が増加しました。

電磁波過敏症の増加

めまいのオッズが、携帯電話の1日の電話時間が長くなるほど増加しました。

めまい頭痛疲労耳の火照り皮膚のヒリヒリ感

もっとみる (2件)

体内時計の乱れ

電磁波による概日ホルモンの乱れ

次に、携帯電話や携帯基地局や高圧線、電化製品などからの電磁波被曝により、メラトニンが減少し、コルチゾールが増加あるいは減少したことを示す研究を紹介します。

また、ラットやマウスの電磁波被曝で、メラトニンが減少し、コルチゾールが増加あるいは減少したことを示す研究も紹介します。

メラトニン・コルチゾールとは?

メラトニンは松果体から夜間に分泌され、脈拍低下、体温低下、血圧低下をもたらす、睡眠ホルモンとして知られています。

一方コルチゾールは副腎から昼間に分泌され、脈拍上昇、体温上昇、血圧上昇、血糖値上昇をもたらす、覚醒ホルモンとして知られています。

メラトニンやコルチゾールの濃度は概日(約24時間)で変動するため、概日ホルモンと呼ばれます。

概日リズムの調節

心臓や肺といった体の末梢組織はそれぞれ独自に概日リズムを刻んでおり、末梢時計と呼ばれます。

哺乳類においては、視床下部の視交叉上核という部位が、これら末梢組織の概日リズムを制御しており、中枢時計と呼ばれます。

視交叉上核の概日リズムは、概日ホルモンであるメラトニンやコルチゾール、また自律神経を介して、末梢組織に伝達されます。(Menaker et al. 2013)

概日リズムの調節

電磁波による体内時計の乱れ

電磁波被曝によりメラトニンやコルチゾールの概日リズムが乱れること、また自律神経が乱れることが示されています。

つまり、電磁波が体内時計の乱れを引き起こしていることが疑われます。

実際、電磁波被曝でラットの視交叉上核の概日リズムに乱れが生じ、また細胞における概日リズムの実体である、時計遺伝子の概日リズムに乱れが生じたことを示す実験が存在します。

これらの実験もここで合わせて紹介します。

研究紹介 - 概日ホルモンの乱れ

Jarupat et al. 2003

日本の16-36歳の女性の研究参加者が、コードレス電話 (PHS) を左耳に接触させ、その電磁波を夜7時半から深夜1時の間に、1時間ごとに30分、合計3時間被曝しました。

すると深夜2時におけるメラトニンの分泌量が減少しました。

メラトニンの減少

夜間の唾液のメラトニン濃度が、コードレス電話の電磁波のわずか3時間の被曝で、4割減少しました。

Burch et al. 2000

アメリカの6つの電力会社の男性従業員について、変電所・三相導体からの低周波電磁波が強くなるほど、夜間および一晩合計のメラトニンの分泌量が減少しました。

メラトニンの減少

夜間のメラトニン濃度が、変電所・三相導体の低周波電磁波が平均0.27μTで4割減少しました。

夜間一晩合計
Yellon 1994

大人のジャンガリアンハムスターが強さ100μTで60Hzの低周波電磁波を、夜10時に15分間だけ被曝させました。

すると夜間のメラトニン分泌量が激減し、メラトニンの概日リズムが消失しました。

再現試験が2回実施され、1回目では再現しましたが、2回目では再現しませんでした。

メラトニンの減少

メラトニンの概日リズムが、夜10時のわずか15分間の電磁波被曝で消失しました。

元試験再現試験 1再現試験 2
Wilson et al. 1981

青年に相当する生後56日のラットが強さ65 kV/mで60Hzの低周波電磁波を1日20時間、30日間被曝しました。

すると夜間のメラトニン分泌量が激減し、メラトニンの概日リズムが消失しました。

メラトニンの減少

メラトニンの概日リズムが、電磁波被曝で消失しました。

Augner et al. 2010

携帯基地局からの電磁波を、電磁シールドを使って強0.21 μW/cm2、中0.015 μW/cm2、弱0.00052 μW/cm2の3種類の強さに調節しました。

続いてオーストリアのザルツブルクの18-67歳の研究参加者が、次のような時程で携帯基地局からの電磁波を被曝しました。

時刻セッション電磁波の強さ
9:00-9:501
9:55-10:452
10:50-11:403
11:45-12:354
12:40-13:305

1セッションは50分で、間の休憩は5分間です。

するとセッション4からセッション5にかけて、コルチゾールの分泌量が増加しました。

コルチゾールの増加

実質上、携帯基地局の電磁波のわずか50分の被曝で、唾液のコルチゾール濃度が4割増加しました。

Mortazavi et al. 2012

イランのラフサンジャーン医科大学の歯科医と歯科学生について、電磁波を発するスケーラーの日々の職務利用により、朝と昼、特に昼のコルチゾール分泌量が減少しました。

コルチゾールの減少

電磁波を発するスケーラーの利用で、朝の血中コルチゾール濃度が2割減、昼の血中コルチゾール濃度が4割減少しました。

もっとみる (3件)

研究紹介 - 体内時計の乱れ

Hiwaki

メスラットが強さ40μTで50Hzの低周波電磁波を、水平横 (X)・水平縦 (Y)・垂直 (Z) の3方向から48時間被曝しました。

また電磁波の他、垂直方向 (Z) に静的磁界40μTが適用されました。

すると被曝期間中、照射方向に依存して、ラットの視交叉上核の概日リズムが乱れました。

視交叉上核の概日リズム
視交叉上核の概日リズム(被曝無し)
対照群
視交叉上核の概日リズム(X方向被曝)
X方向
視交叉上核の概日リズム(Y方向被曝)
Y方向
視交叉上核の概日リズム(Z方向被曝)
Z方向

X方向照射時に視交叉上核の概日リズムが消失し、y方向照射時には概日リズムの周期が短縮し、Z方向照射時には大きな変化はみられませんでした。

Thöni et al. 2021

皮膚を作る細胞であるマウス繊維芽細胞が、核磁気共鳴を発生させる電磁波を6時間あるいは12時間被曝しました (※)。

MBST ®と呼ばれる核磁気共鳴を用いた治療器具により、静的磁界 0.4 mTと共鳴周波数 17 kHzの電磁波を生成

すると時計遺伝子から生成される、mRNAとタンパク質の概日リズムが乱れました。

特に6時間の被曝群においてそれが顕著でした。

概日リズムの乱れ (mRNA)

時計遺伝子CRY1 (クリプトクロム) について、6時間の電磁波被曝でmRNA生成量が減少し、概日リズムの振幅が減少しました。12時間の電磁波被曝でも概日リズムの振幅が減少しました。

CRY1CRY2PER1PER2CLOCK
概日リズムの乱れ (タンパク質)

時計遺伝子CRY1 (クリプトクロム) について、対照群のタンパク質に周期性がみられますが、概日 (約24時間) ではありません。6時間の電磁波被曝で位相が反転しました。12時間の電磁波被曝では位相がずれました。

CRY1CRY2CLOCK

概日ホルモンの乱れの結末

電磁波被曝により、メラトニンの分泌量が減少し、コルチゾールの分泌量が増加、あるいは減少することを見てきました。

そしてこれらの概日ホルモン分泌の乱れは、様々な疾患との相関が知られています。

不眠症

不眠症患者では、夜間のメラトニン分泌が低下していることが示されています。(Riemann et al. 2002, Hajak et al. 1995, Haimov et al. 1994)

メラトニン欠乏症は高齢者の不眠症の指標というよりは、むしろ原因として示唆されています。(Cardinali et al. 2012)

ある研究によると、不眠症患者では夕方と夜間のコルチゾール値が有意に上昇しました。 (Rodenbeck et al. 2002)

うつ病

睡眠と概日リズムの乱れは、うつ病の顕著な特徴です。(Cardinali et al. 2012)

うつ病含む気分障害のほとんどの場合において、不眠症が気分障害の症状に先んじて現れます (Ohayon and Roth 2003)。

若年成人を対象とした疫学調査では、不眠症の既往がある人の大うつ病の発症率は4倍に増加しました。(Breslau et al. 1996)。

うつ病は、日中コルチゾール曲線の平坦化と関連しています。 (Joseph and Golden 2016)

自殺

過眠症や不眠症の患者は、睡眠障害のない患者に比べて自殺尺度の得点が有意に高く、自殺に至る可能性が有意に高いことがわかりました。(YoEargon et al. 1997)

乳がん

メラトニンに抗腫瘍作用があることはよく知られており、いくつかの研究でメラトニン濃度と乳がんリスクの間に逆相関があることが証明されています (メラトニンが少ないほど乳がんのリスクが高い)。 (Kubatka et al. 2018)

海馬の萎縮

コルチゾールの分泌量の増加は、海馬を損傷し、萎縮させることが知られています。

ラットへのコルチゾール (コルチコステロン) の長期投与は、脳の海馬の形態学的な劣化と、認知機能障害を引き起こしました。 (Arbel et al. 1994)

コルチゾールに長期間さらされることで発症するクッシング症候群は、海馬の大きさの減少と語想起の低下を示し、これらはコルチゾール濃度と逆相関しています。(Stokes 1995)

海馬萎縮を伴ううつ病においては、一般的にコルチゾール (グルココルチコイド) の著しい分泌過多がみられます、 (Lee et al. 2002)。

アルツハイマー病・ADHD・うつ病

コルチゾール濃度の上昇は、認知機能に有害な影響を及ぼし、アルツハイマー病の病理に寄与している可能性があります。(Ouanes and Popp 2019).

アルツハイマー病の病理は海馬の委縮から始まり、ADHDの児童においては海馬の体積が減少しており、うつ病においても海馬が萎縮していることが示されています。(Dhikav and Anand 2011, Hoogman et al. 2017, Videbech 2004)

2型糖尿病

質の悪い睡眠は、2型糖尿病、冠動脈性心疾患、高血圧など、多くの慢性疾患と関連しています。 (Abell et al. 2016)

日内コルチゾール曲線の平坦化は、インスリン抵抗性および2型糖尿病と関連しています。 (Joseph and Golden 2016)

ストレス関連疾患

ストレスは、視床下部-下垂体-副腎系の活性増加と関連付けられており (GUNNAR and VAZQUEZ 2001)、コルチゾール濃度の上昇がその結果として伴います。

しかし、いくつかのストレス関連疾患、特にPTSDや慢性疼痛・疲労症候群では、逆説的にストレスホルモンであるコルチゾールの血中濃度がやや低くなっています。 (Yehuda and Seckl 2011)

視床下部-下垂体-副腎系の慢性的な活性化が、この現象に先行しているという仮説があります。(GUNNAR and VAZQUEZ 2001)

つまり、視床下部-下垂体-副腎系の慢性的な活性化は、いくつかのストレス関連疾患の発症につながる可能性があり、それはコルチゾール濃度の低下という形で表れる、ということになります。

体内時計の乱れの結末

体内時計の乱れは、うつ病、がん、2型糖尿病、心血管疾患などの疾患に関与しており (Salgado-Delgado et al. 2011, Leng et al. 2019, Gery and Koeffler 2010, Parameswaran and Ray 2021, Takeda and Maemura 2011)、概日ホルモンの乱れや、自律神経の乱れが関与する疾患と重なる部分が多いです。

体内時計の乱れは、概日ホルモンの乱れや自律神経の乱れなどにつながり、それらの相乗作用によって様々な疾患が引き起こされている、と考えることができます。

神経伝達障害

次に、携帯電話などからの電磁波被曝により、ラットにおいて神経伝達障害が起きること、つまり神経伝達物質であるモノアミンが乱れることを示した研究を紹介します。

モノアミンとは?

神経伝達物質とは、脳の情報処理の主体である、ニューロン間の信号伝達に使われる物質のことです。

モノアミンとは神経伝達物質のうち、単一のアミノ基を有するという、共通の化学構造をもつものの総称です。

モノアミンであるセロトニン、ドーパミン、ノルアドレナリンは、気分、感情、行動に大きな影響を与えます。(Lövheim 2012)

そして後述しますが、モノアミンの乱れは攻撃的行動や自殺などにつながる可能性があります。

研究紹介

Megha et al. 2015

オスラットを電磁波耐性試験用の箱に入れ、900MHz、1800MHzの高周波電磁波をそれぞれ全身平均SAR 0.00059 W/kg、0.00058 W/kgで1日2時間、30日間被曝させました。

すると携帯電話の周波数が高くなるほど、モノアミンであるセロトニン、ドーパミン、ノルアドレナリン、アドレナリンが、海馬において減少しました。

モノアミンの減少

海馬におけるモノアミン濃度が、携帯電話の電磁波の周波数が高くなるほど減少しました。

アドレナリンとセロトニンドーパミンとノルアドレナリン
Maaroufi et al. 2014

子どもに相当する生後4週のオスラットが、900MHzの高周波電磁波を局所SAR 0.05-0.18 W/kgで1日1時間、3週間被曝しました。

するとモノアミンであるドーパミン、セロトニンが、海馬・大脳基底核においては減少し、小脳・前頭前野においては増加しました。

また記憶力の低下も認められましたが、これについては記憶力低下の所で紹介しています。

モノアミンの減少

海馬におけるモノアミン濃度が、電磁波被曝で減少しました。

海馬大脳基底核
モノアミンの増加

小脳におけるモノアミン濃度が、電磁波被曝で増加しました。

小脳前頭前野
Ismail et al. 2015

局所SAR 1.00 W/kgのスマホを飼育ケージから10cmの所に設置し、1日15回着信中にし、妊娠中のメスラットがその電磁波を妊娠全期の3週間被曝し、さらに生まれた仔ラットが4週間被曝 (乳児期に相当) しました。

するとモノアミンであるセロトニン、ドーパミン、ノルアドレナリン、アドレナリンが脳内で乱れ、また睡眠ホルモンであるメラトニンが減少しました。

セロトニンの低下

脳内のセロトニン濃度が、胎児期と乳児期のスマホの電磁波被曝で低下しました。

ドーパミンの増減

脳内のドーパミン濃度が、胎児期と乳児期のスマホの電磁波被曝で増減しました。

ノルアドレナリンの増加

脳内のノルアドレナリン濃度が、胎児期と乳児期のスマホの電磁波被曝で増加しました。

アドレナリンの増加

脳内のアドレナリン濃度が、胎児期と乳児期のスマホの電磁波被曝で増加しました。

メラトニンの減少

脳内のメラトニン濃度が、胎児期と乳児期のスマホの電磁波被曝で減少しました。

Burchard et al. 1998

非泌乳のホルスタイン牛が、強さ10 kV/mの60Hzの低周波電界と、強さ30 μTで60Hzの低周波磁界を1日21.5時間、30日間被曝しました。

すると、被曝期間中の最後3日間では、被曝開始前3日間と比べて、モノアミンであるセロトニン、ドーパミン、ノルアドレナリンが減少し、被曝終了5日後の3日間では回復傾向がみられました。

また、β-エンドルフィンとキノリン酸の増加もみられました。

モノアミンの減少

脳脊髄液のセロトニン代謝物の濃度が、被曝期間中に2割減少しました。被曝から数日後には回復傾向がみられました。

セロトニンドーパミンノルアドレナリン
β-エンドルフィンの増加

脳脊髄液のβ-エンドルフィン濃度が、被曝期間中に2割増加しました。被曝から数日後には回復傾向がみられました。

エンドルフィンは内因性オピオイドで、痛みに反応して自然に産生されます。主な働きは、痛みのシグナル伝達を抑制し、他のオピオイドとよく似た多幸感をもたらすことです。 (Jain et al. 2019)

キノリン酸の増加

脳脊髄液のキノリン酸濃度が、被曝期間中に2.4倍になりました。被曝から数日後には回復傾向がみられました。

キノリン酸の増加は、パーキンソン病、アルツハイマー病、ALS、HIV関連の認知機能低下などの神経変性疾患で観察されています。(Hestad et al. 2022)

神経伝達障害の結末

電磁波被曝により神経伝達障害が起きる事、つまり神経伝達物質モノアミンが乱れることを見てきました。

そしてモノアミンの乱れ、特にセロトニンの減少は、攻撃的行動や自殺などとの関連が指摘されています。

攻撃的行動

人や動物の攻撃的行動には、主にセロトニン、それより低い程度でドーパミンとノルアドレナリンの代謝の変化が関与しています。(Brunner et al. 1993)

研究者の間では、セロトニンによる神経伝達の減少と、ドーパミンとノルアドレナリンによる神経伝達の増加が重要視されています。(Brunner et al. 1993)

衝動的な攻撃性、放火、強姦未遂、露出狂、自殺未遂などの異常な攻撃行動を、複数の男性が示している家系では、セロトニンとドーパミンの代謝物の減少と、ノルアドレナリンの代謝物の増加が観察されました。(Brunner et al. 1993)

この家系においては、モノアミン代謝に関わるタンパク質 (モノアミン酸化酵素) が遺伝的に欠損していました。(Brunner et al. 1993)

また、遺伝子操作により同タンパク質を欠損したマウスは、攻撃的行動を示しました。これらのマウスに選択的セロトニン再取り込み阻害薬 (SSRI) を投与すると、つまりセロトニンの脳内濃度を上昇させると、マウスの攻撃性が低下しました。(Godar et al. 2014)

50世代以上の淘汰により全く攻撃性がなくなったマウスは、極めて攻撃的な同種族に比べて、脳内のセロトニン濃度が高くなっていました。(Popova 2008)

したがって電磁波被曝によるモノアミンの乱れ、特にセロトニンの減少は、攻撃的行動を引き起こす可能性があります。

自殺

衝動性・攻撃性の高さは、自殺行動と強い相関があります。(Gvion and Apter 2011)

実際、自殺者および自殺未遂者において、セロトニン濃度が減少していることが示されており、特に暴力的な自殺ほどそれが顕著です。(Träskman 1981, Brown et al. 1982, MANN et al. 1990, Alvarez et al. 1999, Placidi et al. 2001)

したがって電磁波被曝によるモノアミンが乱れ、特にセロトニンの減少は、自殺を引き起こす可能性があります。

うつ病

このほか、セロトニン、ドーパミン、ノルアドレナリンの減少はうつ病につながるといわれており、モノアミン仮説と呼ばれます。(Delgado 2000)

脳活動の改善

ここまで電磁波が与える脳に悪影響を与えることを研究を示した研究を紹介してきました。

しかし一方で、電磁波を使った治療法としての応用も存在します。例えば経頭蓋磁気刺激 (Transcranial Magnetic Stimulation:TMS) はうつ病の治療法として、かなり一貫した統計的証拠があります。(Loo and Mitchell 2005)

望ましい脳波の状態になるよう、視覚や聴覚のフィードバックをうけながら、脳活動を改善する、ニューロフィードバックと呼ばれる技術が存在します。(Center for Brain Training)

2010年の研究はTMSによる皮質反応が、このニューロフィードバック後に有意に増強されることを示しました。(Ros et al. 2010)

これらの電磁波などによる脳活動への影響については、次回の記事で詳しく扱う予定です。

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石塚 拓磨

石塚 拓磨

北海道函館市在住。大学では情報工学を専攻し、エンジニアとして10年以上の経験があります。
このサイトを通じて少しでも多くの人が電磁波の危険性について気づいていただければ幸いです。

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