ミトコンドリア損傷と細胞死

次に活性酸素がミトコンドリアを損傷し、細胞死を誘導する経路について説明します。
続いて、電磁波によってミトコンドリア損傷からの細胞死が、実際に起きたことを示す研究を紹介します。

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ミトコンドリアの細胞呼吸
細胞呼吸とは?
呼吸は以下の2つの過程に分けられます。
外呼吸
生物が空気から血液に酸素を取り入れ、かわりに二酸化炭素を放出する過程。
内呼吸
細胞が血液から酸素を取り入れ、かわりに二酸化炭素を放出する過程。
細胞呼吸とは、細胞が酸素を使って栄養素からエネルギーを取り出し、二酸化炭素と水を排出することをいい、内呼吸の主要な過程となります。
そしてこの細胞呼吸をつかさどっているのが、ミトコンドリアです。
細胞呼吸の過程
炭水化物は消化されるとブドウ糖まで分解され、血液を経由して体中に行き渡ります。
細胞に血液からブドウ糖が供給されると、ブドウ糖は解糖と呼ばれるさらなる分解を経て、ミトコンドリアに送られます。
そしてミトコンドリアは酸素を使って、これをATPと呼ばれる細胞のエネルギーへと変換し、老廃物として二酸化炭素と水を排出します。

エネルギーの取り出し
細胞呼吸はいくつかの過程に分かれていますが、ここではミトコンドリアがエネルギー (ATP) を取り出す過程について説明します。
ミトコンドリアはマトリックスと呼ばれる内側の区画と、膜間腔と呼ばれる外側の区画に分かれています。
その区画を隔てる膜に、電子伝達鎖とATP合成酵素と呼ばれる、ブドウ糖に由来する分子からエネルギーを取り出す器官が存在します。

この電子伝達鎖に、ブドウ糖に由来する分子から、高エネルギーの電子が渡されます。電子は電子伝達鎖の中を下っていく過程で、エネルギーを放出します。このエネルギーを使って、水素イオンがマトリックスから膜間腔へと汲み上げられます。

これにより膜間腔の水素イオンの量は多くなり、マトリックスは少なくなります。したがって水素イオンの濃度差が発生します。また水素イオンはプラスに帯電しているため、膜電位と呼ばれる電位差も発生します。

この濃度差および電位差により、膜間腔の水素イオンがATP合成酵素の孔を通って、マトリックスへと拡散します。ATP合成酵素はこのイオンが逆流するエネルギーを使って、ADPからATPを合成します。
ADPとはエネルギーが蓄えられる前のATPの状態で、エネルギーを消費したATPはADPへと戻ります。


活性酸素の増幅
ミトコンドリアは活性酸素に曝露するとそれを増幅させる性質をもっており、ROS-induced ROS-release (活性酸素に誘導された活性酸素の放出) と呼ばれています。(Zorov et al. 2006)
2006年のロシアの論文をもとに、その過程を説明します。(Zorov et al. 2006)
まずミトコンドリアが活性酸素に曝露すると、ミトコンドリアの膜透過性遷移孔 (Mitochondrial permeability transition pore) と呼ばれる孔が開孔します。

すると大量の水素イオンが、マトリックスに流入ます。これにより膜間腔とマトリックスで水素イオンの濃度差がなくなるため、膜電位が消失します。

またこの際、電子伝達鎖から大量の電子が周囲に漏洩します。
これはおそらく、電子伝達鎖の構造が変化し、正常な電子伝達の経路が阻害されたためです。(Batandier et al. 2004)

これらの漏洩した大量の電子は、周囲に存在する酸素と結合し、超酸化物へと変化します。

これにより大量の活性酸素が生成されます。

膜透過性遷移孔の開孔の影響
活性酸素が生理的な量である場合、ミトコンドリアの膜透過遷移孔性の開孔は一時的なものにとどまり、少量の活性酸素が放出され、細胞の恒常性 (安定・均衡した状態) を維持するという役割を果たします。(Zorov et al. 2014)
一方、活性酸素が病理的な量まで増加した場合、つまりミトコンドリアが酸化ストレスに曝された場合、その開孔は長期化し、大量の活性酸素が放出され、細胞は死に至ります。(Zorov et al. 2014)

また、膜透過性遷移孔の開孔は、ミトコンドリアの膨張、さらには破裂につながり、これによりシトクロムcとよばれる細胞死を誘導するシグナルが放出されます。(Halestrap et al. 2000)

さらに、膜透過性遷移孔の開孔によってミトコンドリアの膜電位が消失しますが、これによりATP合成酵素が機能しなくなるため、これが長続きすると細胞はATPの枯渇に陥り、細胞死 (ネクローシス) に至ります。(Halestrap 2009)

開孔の長期化による細胞死
以上の話をまとめます。
ミトコンドリアの膜透過性遷移孔の開孔が長期化すると、ミトコンドリアが膨張・破裂により、またATPが枯渇することにより、細胞死が誘導されます。
長期間に渡る酸化ストレスは、膜透過性遷移孔の開孔を長期化させます。
また電磁波被曝が長期化すると、必然的に酸化ストレスが長期化します。
したがって長期間にわたって電磁波を照射すると細胞は死ぬ、という結論が導き出せます。

電磁波でミトコンドリア損傷と細胞死
それではここで、電磁波被曝でミトコンドリアが損傷し、さらに細胞死したことを示す研究を紹介します。
研究紹介
Zuo et al. 2014
PC12神経細胞株から分化したニューロン様細胞が、強さ30 mW/cm2で2.856GHzのマイクロ波を5分間だけ被曝しました。
するとニューロン様細胞が損傷し、ミトコンドリアの膜電位が低下し、ミトコンドリアからの細胞死のシグナルであるシトクロムcが増加し、細胞死が増加しました。
ニューロン様細胞の損傷


マイクロ波の被曝でニューロン様細胞が損傷しました。
ミトコンドリアの膜電位の低下
ミトコンドリアの膜電位の指標が、マイクロ波の被曝で4割減少しました。
細胞死のシグナルの増加

マイクロ波の被曝で、細胞死のシグナルであるシトクロムcの他、それに応答して活性化するカスパーゼ-3などのタンパク質も増加しました。
細胞死の増加
ニューロン様細胞の細胞死が、マイクロ波の被曝で2倍になりました。
Liu et al. 2012
脳内の非神経細胞であるラットのアストロサイト、およびラット神経膠腫細胞が、1950MHzの高周波電磁波を培地平均SAR 5.36W/kgで48時間被曝しました。
するとアストロサイトのミトコンドリアが膨張・損傷して細胞死が増加し、細胞数が減少しました。
一方、アストロサイトのがん細胞である神経膠腫細胞は、高周波電磁波の影響を大きく受けませんでした。
ミトコンドリアの損傷


高周波電磁波の被曝で、アストロサイトのミトコンドリアが膨張、損傷しました。
細胞死の増加
細胞数の減少
Kiray et al. 2012
成体のオスラットに50Hz、3mTの低周波電磁波を1日4時間、2ヶ月間被曝させました。
すると心臓において活性酸素が増加し、心筋のミトコンドリアが膨張・損傷して細胞死が増加しました。
活性酸素の増加
脂質過酸化の増加と抗酸化活性の減少は活性酸素の増加を意味します。
ミトコンドリアの損傷


電磁波被曝で心筋のミトコンドリアが膨張・損傷しました。
心筋の細胞死の増加
Türedi et al. 2014
妊娠中のラットが強さ50 μW/cm2で900MHzの高周波電磁波を1日1時間、妊娠後期の1週間被曝しました。
すると生まれた息子ラットの心筋において、ミトコンドリアが膨張・損傷して細胞死が増加しました。
ミトコンドリアの損傷



電磁波被曝で心筋のミトコンドリアが膨張、損傷しました。
細胞死の増加
心筋の細胞死の割合が、電磁波被曝で3倍になりました。
Liu et al. 2015
青年に相当する生後8週のオスラットが強さ50 mW/cm2で2.9 GHz、の高周波電磁波をパルス変調し、1日6分、12ヶ月間被曝しました。
すると心臓の洞房結節において、ミトコンドリアが膨張・損傷して柔組織細胞 (機能的細胞) が減少しました。
ミトコンドリアの損傷



電磁波被曝で洞房結節のミトコンドリアが膨張・損傷しました。
細胞数の減少


電磁波被曝で洞房結節の柔組織細胞が減少しました。
実験の紹介は以上です。
実際に電磁波はミトコンドリアを損傷し、細胞死を引き起こすことを確認しました。
