突然変異の結末

ここまで、DNA損傷からの突然変異の経路について説明してきました。
そして突然変異は、流産、不妊、遺伝子疾患、がんなどへとつながり、健康に影響を与えます。
また大規模な突然変異を検知して細胞死に誘導する機構が存在します。

細胞死
染色体の構造異常と異数性
まず、二動原体と無動原体、未修復の染色体の切断、そして異数性などの大規模な突然変異 は、がん抑制遺伝子p53などによって細胞死へと誘導されます。(Schwartz 1997, Belloni et al. 2008, Karlseder et al. 1999, Lips and Kaina 2001, Li et al. 2010, Thompson and Compton 2010)

しかしながら、この染色体異常の検知機構は完全なものではありません。
例えば、卵子 (卵母細胞) では異数性が検出されずに居残ることが知られています。これは、加齢による検出機構の劣化か、あるいは卵子にある種の分離異常を検出する機構がもともと備わっていないためです。(Jones 2007)
また、この検知機構を構成する遺伝子自体が突然変異によって機能不全に陥ってしまうと、突然変異を起こした細胞がそのまま居残り、発がんなどへの道が開きます。
流産
染色体の異数性
染色体の異数性は流産を引き起こす最も主要な要因です。(Hassold and Hunt 2001)
特に異数性のうち、染色体が1個足りないモノソミーは、21番染色体を除いてすべて流産となります。(Fisher et al. 2012)
ほとんどの異数性は卵子由来ですが、一部は精子にも由来します。(Nagaoka et al. 2012)
例えば、反復流産群の精子染色体の異数性の割合は、妊孕対照群の2倍でした。(Carrell 2003)
したがって卵子・精子の形成中に、あるいは受精卵 (胚) の成長中に染色体の異数性が発生すると、流産が増加することになります。

染色体の構造異常
上述の通り流産の主要な原因は異数性ですが、一部は構造異常にも由来します。
流産の50%は染色体異常に起因しており、うち86%もが染色体の異数性ですが、6%は染色体の構造異常、8%はその他の遺伝機構です。(Goddijn and Leschot 2000)
したがって染色体の構造異常も流産を増加させるといえます。

電磁波による流産
そして実際、電磁波被曝により流産が増加し、出生数が減少すること示されています。これらの研究は以下の記事の1ページ目からご覧いただけます。
生殖機能の異常 (ページ 1)

電磁波被曝により、精子が減少し、男性不妊、女性不妊、流産、先天異常、低出生体重児などが増加し、また男児出生率が減少することが示されています。 近年、精子の数は減少傾向にあり、不妊、流産、先天異常、低出… 記事全文を読む
不妊
染色体の異数性
染色体の異数性は流産だけでなく、不妊の要因でもあります。
妊娠初期に見られる異数性の割合は、卵子や着床前の胚よりはるかに低いです。このことは、染色体異常を持つ胚のかなりの割合が、認知される前に失われていることを示唆します。(Munné et al. 2003)
つまり、異数性が増加すると着床前に喪失する胚が増加し、妊娠が成立しないため、女性不妊症が増加します。
また、不妊症の男性は精子の異数性のレベルが高く、異数性の発生率は不妊症の重症度に比例して高くなります。(Templado et al. 2013)。
したがって卵子・精子の形成中に、あるいは受精卵 (胚) の成長中に染色体の異数性が発生すると、不妊が増加することになります。

電磁波による不妊
そして実際、電磁波被曝により男性不妊、女性不妊が増加すること示されています。これらの研究は以下の記事の1ページ目からご覧いただけます。
生殖機能の異常 (ページ 1)

電磁波被曝により、精子が減少し、男性不妊、女性不妊、流産、先天異常、低出生体重児などが増加し、また男児出生率が減少することが示されています。 近年、精子の数は減少傾向にあり、不妊、流産、先天異常、低出… 記事全文を読む
遺伝子疾患
染色体の異数性
染色体の異数性は先天異常を引き起こす最も主要な要因です。(Nagaoka et al. 2012)
たとえば21番染色体のトリソミーはダウン症候群、18番染色体のトリソミーはエドワーズ症候群を引き起こすことがよく知られてします。

しかしそれ以外の大部分の染色体のトリソミー、またすべてのモノソミーは胚にとって致命的で、流産となります。
染色体の構造異常
卵子・精子の形成中に、あるいは受精卵 (胚) の成長中に染色体が欠失すると、欠失症候群と呼ばれる、形成異常や精神遅滞をともなう遺伝子疾患を発症します。

一方、転座は典型的には良性ですが、一部はダウン症などの遺伝子疾患の原因となりえます。(Wilch and Morton 2018)

電磁波による先天異常
そして実際、電磁波被曝により遺伝子疾患含む、先天異常が増加すること示されています。これらの研究は以下の記事の1ページ目からご覧いただけます。
生殖機能の異常 (ページ 1)

電磁波被曝により、精子が減少し、男性不妊、女性不妊、流産、先天異常、低出生体重児などが増加し、また男児出生率が減少することが示されています。 近年、精子の数は減少傾向にあり、不妊、流産、先天異常、低出… 記事全文を読む
がん
塩基置換
がん抑制遺伝子p53
DNAに突然変異が起きると、DNAの生成するタンパク質の性質が変化します。
特にがん抑制遺伝子に突然変異が起きると、そのタンパク質が正しく機能しなくなり、がんにつながることが、よく知られています。
例えば、ヒトのがんの5割において、がん抑制遺伝子p53のタンパク質が不活性化しています。そしてこのうち8割もが、塩基置換 (ミスセンス) の突然変異に起因します。(Soussi and Lozano 2005)

がん原遺伝子Ras
また、がん原遺伝子 (※) と呼ばれる、細胞増殖の引き金をひく遺伝子の突然変異により、そのタンパク質が常に活性化した状態になってしまい、がんにつながることも、よく知られています。
突然変異を起こしたがん原遺伝子が、がん遺伝子と呼ばれるようになります。
例えばがん原遺伝子Rasは、塩基置換により変異すると発がん能を獲得し、これはヒトのがんの2割において観察されます。 (Prior et al. 2020)

塩基対欠失
また、塩基置換ほどではないですが、塩基対欠失とがんの相関も示されています。
がん抑制遺伝子p53
ヒトのがんから収集した、がん抑制遺伝子p53の突然変異740個のうち、1割に塩基対の欠失・挿入がみられました。(Jego et al. 1993)

染色体の構造異常
染色体の構造異常によっても、がんがもたらされます。
二動原体
先述した通り、二動原体は「切断-融合-架橋サイクル」 と呼ばれる染色体損傷の連鎖反応を引き起こし、これががんのイニシエーションに強く関与しています。(Gascoigne and Cheeseman 2013)

欠失
欠失はしばしばがん抑制遺伝子の喪失をもたらし、がんにつながります。(Rabbitts 1994)

逆位・転座
逆位や転座により、がん原遺伝子が抗体など生産量の多い遺伝子に隣接すると、増殖を促進するタンパク質の生成量が異常に増加することになり、結果がんにつながります (Rabbitts 1994, Nussenzweig and Nussenzweig 2010)

また、逆位や転座により、遺伝子が融合し、キメラタンパク質と呼ばれる、がんに特有のタンパク質が生成されるようになり、これもがんにつながります。(Rabbitts 1994, Nussenzweig and Nussenzweig 2010)

無動原体・染色体断片・遅滞染色体
染色体の損傷と微小核の形成は、多くのがんの発症に重要な役割を果たしていると考えられています。(Bhatia and Kumar 2012)
先述した通り、微小核の染色体は断片化を受け、本体の染色体に再組み入れされ、染色体の構造異常を悪化させるということが示されています。(Crasta et al. 2012)
したがって、無動原体・染色体断片・遅滞染色体から生じる微小核により、がんにつながる可能性があります。

染色体の異数性
染色体の異数性ががんを引き起こすのかはよくわかっていません。
微小核
まず、固形腫瘍の最大90%が異数性です (腫瘍の種類によって26%から99%)。(Ben-David and Amon 2019)
しかし異数性が腫瘍形成を促進するのかはどうかは、細胞の文脈に依存しており、異数性が細胞増殖を促進すること、抑制することの双方が示されています。(Ben-David and Amon 2019)

さらに、2019年のアメリカ・イギリスの研究は、単一染色体の微小核への誤分離が、転座・欠失・逆位・断片化などの多様な染色体の構造異常 (染色体再配列) を引き起こすのに十分であることを発見しました。(Ly et al. 2019)
つまり異数性と同時に生じる微小核から、がんにつながる可能性があります。

17番染色体
それとは別に、がん抑制遺伝子p53が存在する17番染色体の異数性は、慢性骨髄性白血病、多発性骨髄腫、卵巣がん、大腸がん、腎臓がん、乳がん、胃がんなど非常に多数のがんにおいて観察されることが知られています。(Othman et al. 2001)

前のページでは電磁波被曝により、17番染色体の異数性が増加したことを示す研究を紹介しました。
電磁波によるがん
そして実際、電磁波被曝により白血病や悪性リンパ腫、脳腫瘍、乳がん、精巣がんなど、多岐に渡るがんが増加すること示されています。これらの研究は以下の記事の4ページ目からご覧いただけます。